「下投げだから大丈夫」は本当? ~ソフトボール投手を守るために知っておいてほしいケガのリスク~

ソフトボールは下投げだから肘や肩に優しい、というイメージを持っている方は多いかもしれません。

しかし、だからといって「何百球投げても大丈夫」という考え方には注意が必要です。

「ソフトボールの下投げは負担が少ないから、いくら投げても大丈夫」

そんな言葉を、指導者や保護者の方からよく耳にします。

しかし、実際に現場で子どもたちと接した経験から、その考えに疑問を感じています。

今回は、柔道整復師・鍼灸師としての視点や、実際の現場で見た経験をもとに、「下投げでも投げすぎにはリスクがある」ということをお伝えしたいと思います。

【下投げでも「肘の内側」に強い負担がかかる】

下投げの動作では、肘の内側にある筋肉や靭帯に大きな負担がかかっています。

これが1日100球、週末だけでも何百球となれば、肘だけでなく体全体への負担や疲労の蓄積は避けられません。

特に成長期の子どもたちは、関節や骨がまだ未熟で無理をすればケガに繋がる可能性があります。

今は痛みがなくても、小学生のうちに肩・肘を酷使すると中学、高校に進んだときにケガやパフォーマンスの低下につながる可能性も高まります。

【肘や肩だけじゃない、下半身にも負担がかかる】

下投げは肩への負担が少ないと思われがちですが、肩の回旋動作も伴うため、実際には負担はゼロではなく肩の筋肉や関節にも負荷がかかっています。

また、踏み込みや体の回転の動きによって膝や足首、股関節、腰などにも負担がかかります。

【実際に見た試合後の練習】

あるチームでは、土日に試合があったにもかかわらず、週明けの月曜日もピッチャーにキャッチボール・遠投・ピッチングをさせていました。

これは非常に大きな負担であり、リスクです。

せめて月曜日は完全休養、もしくはノースローにするなど、肘や肩を休ませる日が必要です。

連戦が続く場合は、次の土日のどちらかは練習を軽めにするなどの工夫も大切ですが毎週のように土日に試合や練習試合が入っていることが多く、選手にも保護者にも大きな負担となっています。月の試合数を減らすことも必要だと思います。

【変化球にも要注意】

試合で球審をしたことがありますが、実際に小学生のピッチャーがスライダー系やシュート系、落ちるボールなど複数の変化球を投げているのも見ました。

これらの変化球は肘をひねる動作が加わるため、肘への負担が非常に大きく、将来の怪我につながるリスクがあります。

変化球を全く投げるなとまでは言いませんが、私の提案としては、小学生のうちは「ストレート」と「チェンジアップ」だけで十分に勝負できると思います。工夫をすればバッターを抑えられると思います。

球種よりも、緩急の使い方やコントロール、小学生なりにバッテリーで『どうすればバッターを抑えられるか』を考え投球術を磨くことで中学・高校でのプレーにも生きてくるはずです。

【一人に頼らず、複数投手制を】

小学生のソフトボールでも、やはり一人のピッチャーに頼りきるのは避けるべきです。

勝利を目指すのはいいと思いますが、その子の将来を守るためにも「複数人で投げられる体制」を作ることがとても大切です。

・指導者の先入観で、この子は投手に向いていないと決めつけない。

・一度全員の部員に投手を経験させるつもりで練習で投球練習をさせてみる

・練習試合では試す機会として多くの投手を投げさせてみる

それでも本人がどうしても難しいと感じたり、指導者が適性を見極めてからそこで初めて野手に専念させてもいいと思います。

そのようにして一人でも多くの投手がいることによりケガの予防、チーム力の向上に繋がります。

実際に起きた2つの出来事】

【ケース①:寒い時期に連投したピッチャー】

以前、寒い時期に、ある小学生の大会で2日間にわたり7~8試合すべて一人で投げるピッチャーを見かけたことがあります。

試合の前にはキャッチボールや投げ込みもあり、イニングごとに投球練習もあります。すべてを含めると、数百球に及ぶ投球となっていたはずです。

しかも寒い時期で身体が冷えやすく、筋肉や関節へのダメージはさらに増します。私はその子の登板を見ながら「ケガをしないか…」と冷や冷やして見ていました。

【ケース②:フォームの問題でケガした選手】

別の選手の話ですが、投球動作で前に踏み出す足首をケガしてしまった子もいました。明らかに不自然な足のつき方をしていて、身体の構造的にも「このままだと、いずれ何度も故障を繰り返す恐れがあるだろう」と思えるフォームでした。

私は、指導者から相談を受ける立場として、フォームについて足のつき方を修正するよう提案したことがありますが、聞き入れてもらえませんでした。

大事な大会までには数か月の期間があったにもかかわらず、です。

周囲の保護者の中には「フォームを変えると崩れる」と否定的な意見もあり、子供の将来を見据えた視点よりもチーム全体が勝利至上主義が強いなと感じました。

大事な試合の一週間前などの直前ならフォームは変えない方がいいですが、明らかにケガをするようなフォームをしていて時間もあるのにフォームの修正をしないことには疑問を感じます。

【子どもたちを守るために必要なこと】

これから先、子どもたちが長く野球やソフトボールに関わり、成長していくためには「投げすぎない仕組み」が必要です。

  • チームの指導者が複数投手制の導入
  • 登板間隔や球数の管理
  • フォームのチェックとケアの徹底
  • 保護者・指導者の意識のアップデート

特に「下投げだから大丈夫」という思い込みは、成長期の子供たちにとって大きなリスクとなり得ます。

こういった視点を、保護者や指導者の方たちが一人でも多く持ってくださることを願っています。

※この記事は実際の指導・体験をもとにしていますが、特定のチームや個人を批判するものではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました